「それ以上のことは運だ」

久しぶりの「実にならない仕事」がようやく終わる。食事がのどを通らずに体調を崩すというのはなかなかない経験だった。ヘビーな現場以上にヘビーな打ち上げというのもあまりよろしくない話。居酒屋のマスター、朝方まで店を空けてくれた上に、明け方には気を効かせて人数分の飲み物をサービスしてくれたのだが、いかんせんそれがほとんど味のないマスカットサワーで、そもそもサワー自体数年ぶりに呑んだので、色んな意味でいたたまれなさが倍増した。

昼過ぎに起床、駅まで歩いて行って、昨年末から借りたままだったカチンコを知り合いの映画監督に返したあと、喫茶店に入って朝食。混み合った店内の喧噪を埋めるべく、スピーカーからはデヴィッドボウイがジギースターダストになって歌っているのが聴こえてくる。

運ばれてきたホットツナサンドは程よく、丁寧に焼き模様がつけられていて、さも自然と切れ目が生じたかのように2つにカットしてある。同じ皿の端にほどよくのせてあるサラダは瑞々しく、あきらかに近くの西友で買ってきたと思われる和風胡麻ドレッシングがほんの少しかけてあるのだけれど、それも決して嫌みな感じがしない。サラダの一番端に一粒のっている缶詰のミカンが、色の調和をとっている。
いわゆる、うまい料理というのとはちょっとちがう。でもひとついえるのは、何日か前に入った芝居小屋の近くの喫茶店で頼んだピザトーストは、明らかにパンがDOUBLE-SOFTだったし、味はきちんとしていたのだけれど、そのパンを縦ではなく横方向に3等分するという、いってみれば木目をまるで無視して木を切っているような仕事ぶりに、ちょっとあきれてしまったわけで、大事なのはそういうところなんじゃないかと思う。
「上手いんじゃない。ただ愛情をこめて丁寧に作っているだけだよ。それだけでずいぶん違うものなんだ。姿勢の問題だよ。様々な物事を愛そうと努めれば、ある程度までは愛せる。気持ちよく生きていこうと努めれば、ある程度までは気持ちよく生きていける」という、ある本の一節を思い出しながらトーストを齧っているうちに、ジギースターダストが"you're not alone!"と叫んでアルバムが終わった。
そのあと流れるように「changes」が流れはじめた。別のアルバムなんだけど、そのあとも聴いたことがある曲が流れてきて、でもはっきりと思い出すことができない。
Hunky Dory
Hunky Dory
知り合いのイギリス人で横浜に住んでる日本語教師がいて、桜木町のガラクタ市でオリンパスOM-1をゲットしたりしてるナイスでクレージーガイなんだけど、そんなSTVEの家にいったときに音楽の話でやたら盛り上がって、最終的に焼いてもらったのがこの「hunky dory」だった。「ziggy stardust」がいいアルバムだといったら、絶対「hunky dory」の方がいいといって焼いてくれた。そのときはあんまりよさが分からなかったんだが、今日「changes」が流れてきた瞬間にすでに「変化」があって、でも何がきっかけなのかはほとんど分からない。